No.21 アウトランディング

上昇気流の力だけで飛び、動力に頼らないグライダー飛行では、アウトランディング(場外着陸)が時として避けられません。天候に注意し、地図を頭に入れ、いざとなったら安全な場所を探し、風向きも考えながらアウトランディングするには高度なスキルや判断力が必要です。

クロスカントリー飛行に出る前、アウトランディングの講習を受けました。航空写真を見ながら、どのような地形であれば安全にアウトランディングできるかを学びます。土地の広さ、長さ、傾斜、溝、排水溝、地面の筋模様、耕作地、周囲と異なる地肌の色、公共道路・家・人・電線・柵・動物などの有無を確認しながら安全に着陸できる場所(飛行場またはパドック)を探します。 特に上空からは見えにくい電線がとても危険だと教わりました。電線に引っかかることも避けなければいけないが、電線をいざ避けようと操縦桿を引いて失速してしまわないよう注意されました。

アウトランディングしたPeak Hillのパドック

本当のアウトランディング経験

2017年1月3日。ナロマイン飛行場から約100 キロメートル離れたパークス天文台を目指して、オーストラリア人の教官とクロスカントリー飛行に出掛けました。別の日にパークス天文台を訪れていたのですが、地上から見た望遠鏡は巨大でしたが、上空から見る望遠鏡は米粒の大きさでした!

高度約2,500 フィートになると、どうやら教官の様子が変わりました。“Do you feel the surge?(グッと押し上げる感覚分かる?)”、“Do you see the wisp?(雲が細くたなびいているのが分かる?)”、“Did you feel the air mass change?(空気の感じが変わったのが分かる?)”と聞いてきます。どうやら、飛んでいる一帯に上昇気流がなくなってきたようでした。高度が低くなると、白い点で見える羊の群れも視界に入ってきました。もう高度を稼ぐことはできないと判断し、最終的にPeak Hillのパドック(無人飛行場)にアウトランディングしました。

機体を移動して教官と一息

まず、ナロマイン飛行場にアウトランディング場所を無線で連絡しました。次に待っていたのは、離陸するために機体を滑走路の端まで二人で押す作業。教官と私の力加減が異なるのか、左右に分かれて押すと機体はZ字のようにジグザグに進んでいきます。なので、少し押したら教官と左右の入れ替えといった具合に、休み休み機体の曳航準備を整えました。曳航機を待つ間は直射日光を避けるため、翼の下で休んでいました。人生を語り始めた教官。空には、初めて会ったパイロット同士でも心を開かせる不思議な力があるのだと思いました。

あっ、迎えに来たよ
どんどん近づいてくる曳航機
もうすぐだね
曳航機の到着

約40分後、曳航機が迎えに来てくれました。再度アウトランディングしないよう、離陸したらすぐ曳航機から切り離すのではなく、随分と長い間、ナロマイン飛行場の上空近くまで曳航してもらいました。

曳航機が着陸できない場所にアウトランディングしてしまった場合でも、良い場所にアウトランディングすれば機体を引き上げる平均時間は約20分だそうです。滞在中、沼地に着陸してしまったグライダーがありました。その引き上げには計5時間掛かったそうです。それでも嫌な顔一つせず、仲間を手助けした自慢話を満面の笑顔で話すパイロットのおじさんたちを見て、とても素敵だなと思いました。