幼少の頃から空を飛びたい、パイロットになりたいと思っていましたが、当時、女性にはパイロットへの門戸は開かれていませんでした。その中でパイロットとして就職し、その後、エンジンのないグライダーに魅せられ、記録飛行やアクロバット飛行にチャレンジしてきました。グライダーはどうやって飛ぶか、これまでに苦労したこと、楽しかったこと、これからの夢などを、大自然の織り成す美しい空の風景をご覧いただきながら、お話させていただこうと思います。
Good Days『グライダーに魅せられて』紹介文
2021年9月15日(水)13:30-15:30、Good Days(グッデイズ)主催による櫻井玲子さんの講演『グライダーに魅せられて』を聴講する機会に恵まれました。櫻井玲子さんはグライダーも飛行機もヘリコプターも操縦されて、グライダーとヘリコプターの整備士資格もお持ちの方です。海外遠征に行かれる度に浴衣を着て、その国の歌を暗唱されて披露する姿はまさに「日本の空の親善大使」!まさに大空に生きる女性です。業績はすごすぎて呆気にとられてしまいますが、柔らかで穏やかな話し方をするとても魅力的な女性です。公益財団法人日本滑空協会ではEMFT(Emergency Maneuver Flight Training)講座などをご担当されています。当日の司会進行役は鐘尾みや子さん。この女性もすごいパイロットです。一般社団法人女性航空協会の理事をされています。講演の冒頭では、1976年NHKの連続テレビ小説『雲のじゅうたん』が放映され、2022年には再び大空を目指す女性パイロットを主人公としたNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』が放送されることを教えてくださいました。昔、櫻井さんと鐘尾さんはアクロバットフライトチームを結成したり海外にも一緒に遠征したり、モモンガとミミンガという愛称で多くの方に親しまれていたそうです。
久しぶり心が震えた一日となりました。ZOOM越しなのに感動の嵐。櫻井玲子さんはグライダー界では知る人がいない方なのでずっと雲の上の人だと思っていました。それは今でも変わりませんが、「学生時代は全国大会にも出場させてもらえなかった。学生時代はずっと気象班やウィンチ係(グライダーを曳航する係)を担当して裏方ばかりやっていた。だけど、後にその経験が一番役立った」と話されました。今まで雲の上の人だと思っていたにも関わらず、櫻井さんにも下積みのような忍耐が必要な期間があったのかととても励まされる思いでした。「当時は航空大学校も女性は入学できなかった。道はなくてもその時にできる最大限のことをしていこう」と考えていらっしゃったそうです。
40年にわたって築き上げられてきた思い出は、限界性能と限界環境で飛ぶアクロバット飛行、フランス・ファヤンスでの曲技世界選手権、トルコ・アンタルヤでのワールドゲーム、アルゼンチン・アンデス山脈、ポーランド・ジャール、ドイツ・ヴァッサークッペ、オーストラリア・ワイケリー、アフリカ・ガリープダム、ニュージーランド・オマラマ、フランス・セールなどでのフライトで彩られています。櫻井玲子さんの一つの偉業は、南北に3,500キロメートルに広がるアンデス山脈で、1,270キロメートルの長距離飛行の記録を樹立されたことです。櫻井玲子さんの座右の銘「奇跡を信じることをためらうな。夢を持て」はアンデス山脈で3,008キロメートルの飛行記録を持つドイツ人の師匠から贈られた言葉だそうです。気象条件に恵まれるまで、何度も何度も、何十数回挑戦を重ねてようやく到達できる領域だそうです。
講演で特に印象に残ったのは、通信が今のように発達していなかった時代のアウトランディング(上昇気流が見つからずに目的地の滑空場以外の場所に緊急着陸すること。畑など必ずしも緊急着陸する場所は飛行場とは限らない。)のフライトエピソード、高度記録に挑戦した時はマイナス30℃の世界で機械がうまく動かなかったこと、飛行機乗りでは危ないから近づくなと言われる気象でもグライダー乗りは喜々として出て行くと言ったお話でした。今回はフライト人生のダイジェスト版のお話でしたが、ぜひ各フライトのエピソードも詳しく聞いてみたいと思いました。
最後にチャンスがあったので飛行機曳航が下手でどのように訓練すれば良いかと聞いたところ、櫻井さんからは「3次元視野」について、鐘尾さんからは「曳航機に負担を掛けないようについていく!という意志が大切。回数をこなすのみ」とアドバイスをいただくことができました。
今回の講演は神戸市シルバーカレッジ(KSC)国際交流・協力コース19期卒業生の方々が結成された生涯学習の場Good Daysによって実現しました。Good Daysの会員は67歳以上が対象です。聴講者の中からの声では、ぜひこの話を若い世代に聞かせてほしいとの声がありました。グライダー界では有名な櫻井玲子さんですが、グライダーを知らない方々にもぜひ小さい頃からの目標を初志貫徹した女性パイロットの声が広く届けば良いなと思いました。櫻井玲子さんはまだまだフライトで達成したい夢をお持ちのようです。またフライトについてお話を聞ける機会を楽しみにしたいと思います。講演会を主催・企画してくださったGood Daysの田尻茂さま、柳井健三さま、ありがとうございました。
櫻井玲子さんに関する情報:
早稲田大学入学と同時にグライダーを始める。 グライダーによる長距離飛行、山岳飛行、アクロバット修行のため、世界五大陸で冒険飛行を行う。ホームベースは板倉滑空場の日本グライダークラブ。飛行機、ヘリコプターのパイロットを経て、現在は神戸空港のエアバス・ヘリコプターズ・ジャパントレーニングセンターに勤務。
・(2013年3月7日)FAUST ADVENTURERS’ GUILD 櫻井玲子 いつかはエベレストを見下ろしたい
・(2014年2月27日)VIVA ASOBIST Vol.85 櫻井玲子 ―偉大なグライダーパイロット、爽やかな風の如く語る
・(2015年11月27日)ニコニコ動画【夜桜亭日記 #12】グライダーパイロットの櫻井玲子さんをお招きしました