2021年12月4日(土)18:00-20:00(JST)通訳担当 @ 公益社団法人日本滑空協会ZOOM 3,000kmの世界最長記録保持者Klaus Ohlmannが語る “日本のグライダーフライトの可能性!”

This is Klaus Ohlmann

今回、公益社団法人日本滑空協会主催のオンライン講演会で通訳を担当させていただいた講演者のKlaus Ohlmann(クラウス・オールマン)氏は、2003年南米アルゼンチンで3,009キロメートルの世界最長フライト記録を樹立したパイロットです。ドイツから移住し、気象条件の良いフランスのセールに山岳飛翔学校「Quo Vadis(新約聖書に由来するラテン語:「あなたはどこに行くのか」)」も開校されています。15年間、アルゼンチンでフライト活動に励み、近年はヒマラヤ山脈でもフライトに挑戦しています。クラウス氏は「グライダー×地球の壮大な景色×映像」を組み合わせることで、グライダーは美しい地球を保護する再生エネルギーの象徴となり得ると信じ、再生エネルギーの親善大使としても活動されています。クラウス氏と日本人女性パイロットの櫻井玲子さんがアルゼンチンでフライト活動をご一緒されていたこともあり、今回のオンライン講演会が実現しました。アルゼンチンは2つのジェット気流が交わり、山岳波が発生することで有名です。

当日は、次の3つのテーマについてお話がありました。

① ヨーロッパでの2,000キロメートルフライトの挑戦

② 日本での2,000キロメートルフライトの可能性

③ あらゆる世代・レベルにいるパイロットへのメッセージ

今回、私はこの講演会に興奮していました。なぜなら、偉業を達成したクラウス氏の通訳を担当させていただけることも嬉しかったのですが、「山岳波の父」と呼ばれ山岳波の科学を究明したことで有名なドイツの大気科学者Joachim Kuettner(ヨアヒム・クットナー)ともクラウス氏がつながっていたからです。ヨアヒム氏について初めて知ったのは自身が翻書『デジタルアポロ』に取り組んでいた時です。ヨアヒム・クットナー氏はアポロ計画でシステムインテグレーター(=システムを統合する技術者)としても活躍したパイロット兼科学者です。アポロ計画の重要な指導者の一人であるヴェルナー・フォン・ブラウン博士に誘われて渡米。アメリカで高度13,500フィートから風下に600キロメートル飛ぶ山岳フライトを達成し、1952年(奇しくもクラウス氏が生まれた年)には1,000キロメートルの長距離飛行を実現させた人物です(享年102歳)。事前に目を通していた講演会資料にはヨアヒム氏とクラウス氏のツーショット写真も掲載されていて、「とうとうヨアヒム氏と実際に会ったことがある人物からお話をお伺いする機会があるとは!」と感動しました。二人の出会いは、アルゼンチンでフライト活動に励んでいたクラウス氏にヨアヒム氏が「あなたなら私が夢見ていた2,000キロメートルのフライトを実現できる!」と手紙を送ったことがきっかけだそうです。その激励もあって2003年、クラウス氏は3,009キロメートルの世界最長フライト記録を樹立しました。

クラウス・オールマン氏は、アルゼンチンのみならず、ヨーロッパでも2,000キロメートルのフライトに挑戦しています。オンライン講演会では実際に2020年に挑戦したフライトについて地図を見せながらご紹介してくださいました。衛星写真でウェーブパターンを見つけ、SkySightというアプリを使用してフライトを計画されていることをお話してくださいました。長距離飛行を計画する時は、ローカルフライトが行われている地域間のmissing link(ある地点とある地点を結ぶリンク)を探すことが準備の一つであること、ローカルフライトでのデータをつなぎ合わせることが必要であることなどを説明していただきました。実際、フライトを実現させるためには、膨大な量の空域調整と事務作業が必要であるため、「決意」がとても重要とも話されていました。フライトには、気象、空域、政治などの制約があるものの、どんな状況でもなんとか状況を打開できるものだと話されていたことが印象に残りました。

クラウス氏は世界にも目を向け、日本での2,000キロメートルフライトにも大きな可能性があると考えています。冬季には高度7,000メートルに時速350キロメートルで吹く南風があるため日本の冬にはとても興味深いフライトができるのではないか、東北地方では多くの人がすでに飛んでいるので、特に九州でのフライトデータが必要であることなどを説明してくださいました。まずは、エンジン付きのモーターグライダーでデータを集めることを勧めていました。また、フライトを実現するにあたっては、ヨーロッパより日本でのアウトランディング(場外着陸)が難しいことやレンズ雲で機体のアイシングなどが障壁になる可能性も指摘されていました。このようなフライトプロジェクトを実現させるには、大学や研究機関とも協力して、フライトを科学の研究と結びつけることが大切であることも説明されていました。アルゼンチンではガルフストリームの飛行機を使って南極にも飛び科学データを採集し、ヒマラヤのミッションではフライト時に氷河のマッピング(地図製作)を行うなど、フライトが科学に対する興味を喚起するきっかけとなるよう工夫されているそうです。

最後に、Klaus Ohlmann氏からあらゆる世代・レベルにいるパイロットへ宛てたメッセージをご紹介したいと思います。

・山岳フライトのコツ:エンジン付きのモーターグライダーで飛ぶときも不時着できる場所を探すこと。意外と、フライトを実現できる最適な気象の発生頻度も重要。3ヶ月に1回などの発生頻度だとモチベーションを維持することが困難。昔は誰にでも山岳フライトを勧めていたが、強い風と秒速8メートルの下降気流のなかでは素早い意思決定が必要で、性格には向き・不向きがあると考えるようになった。今はすべてのパイロットに対して山岳フライトはオススメしない。やる人は自分がすすめなくてもやる。そして、できる。山岳波でフライトするには、低高度でも飛べる操縦技術が重要。

・自分の実力を知ること、幸運(good luck)に頼らないこと:“I’m godfather. I know everything about glider.(私はグライダーのゴッド・ファザーである。私はグライダーについてすべてを知っている)”という態度は危険である。自分は間違いを起こす存在であると認識することがこのスポーツで生き残るには必要。グライダーのワールドチャンピオンでも事故を起こす。航空界には「フライトで一番危険なのは飛行場に行くまでの車の運転である」と言う言葉が存在する。しかし、それは誤った認識である。ある知り合いのパイロットが、フライトで亡くなった知り合いと車の運転中に亡くなった知り合いを実際に数えてみた。すると、フライトで亡くなった人は20人、車の運転中に亡くなったのは1人であった。また、競技飛行をしている友人のパイロットは大会に出場していた8人のパイロット中4人が亡くなっていることを教えてくれた。全体の半分の50 %はとても大きい数字である。あなたがグライダーで飛ぶことを止めることは決してしないが、危険を認識することはとても大切。グライダーは3次元を操るため危険である。危険を知っているのであれば、あなたは飛ぶ準備ができている。手順を作成すること、手順を守ることも危険を減らしてくれる。手順を作らなかった時に、大きな事故につながる、ギアを忘れた、縛帯をしていなかったなどのミスが発生する。

・異なる性格や特徴をもったそれぞれのパイロットの個性を大切にすること:グライダー界にはクロスカントリーは飛ばずにパイロットの育成に力を入れるパイロットもいる。それぞれのパイロットがグライダー界を支えていると認識し、その個性を認めることが大切。クラブの優秀なパイロットはやる気のある経験が浅いパイロットを複座機に乗せて新たな世界を積極的に見せること。

・若いパイロットは十分に飛ぶこと(Fly Enough. Fly More.):正直、年間50時間だとフライト時間としては足りない。グライダーに限らず楽器など、何ごとも習得するまでに1万時間必要だと言われる。教官はなるべく訓練生がそのフライト時間を達成できるように補助すべき。

・クラブの運営を導く人はグライダーというスポーツの美しさを忘れないこと:“We are doing this sport because it’s beautiful.(私たちは美しいからこのスポーツをやっています)”と胸を張って言えること。何千キロメートルといかに長距離を飛ぶことが大切なのではない。“I like to fly. I like to see the pictures.(私は飛ぶのが好きです。私は飛んでいる時の眺めが好きです。)”という気持ちが一番大切。美しさに魅了される心がかけがえのないもの。他のスポーツでは見ることのできない美しさをグライダーというスポーツでは知ることができる。

・グライダーは社会的なスポーツである:グライダーはお互いに協力し合う、とても社会的なスポーツである。支援や協力を探すべき、そして自らも提供すべきだと考える。アルゼンチンでは不時着した時など、“I will drive you back. (車で送ってってやるよ)”と気軽に声を掛けてくれる。そのようにお互いを支え合う姿勢が大切である。

日本で2,000キロメートルの長距離飛行を実現できるmissing linkを一緒に探しましょう。グライダーを知らない人、まだグライダーを知らない国に、グライダーの魅力を伝えていきましょう。そして、一緒に楽しみましょう。

(Klaus Ohlmann氏についてもっと知りたい方はこちらへ)

https://www.klaus-ohlmann.com/

https://www.klaus-ohlmann-adventures.com/

https://www.mountain-wave-project.com/

Klaus Ohlmann is a five-time world champion and, with over 60 world records, the most successful glider pilot of all time. In addition to his successful practice as a dentist, he worked in his own mountain flying school “Quo Vadis” in southern France. In 1998, he founded the Research Group Mountain-Wave-Project with the aim to make gliding more visible in an exciting contrast between science, adventure, spectacular landscapes and records. More than 30 TV programs have been reported on the record hunter. 3009 km, the longest glider flight of all time, as well as the fastest ever achieved average speed of 307 km / h during a 500 km out and return flight stands for more than a decade in the Guinness Book of Records. Klaus has become an ambassador of renewable energies. From his point of view, gliding is the ultimate sport to represent the use of sustainable energies. He has been involved as a pilot in electric airplanes, where he scored 10 new world records last year. In 2014 he was the chief pilot of a scientific mission in the Himalayas. He flew his high tech Stemme S 10 VT from Berlin to Kathmandu. Equipped with special cameras of German Aerospace DLR, the plane was used to shoot spectacular high-resolution 3D images of M.Everest. After the completion of the work, Klaus succeeded in the first overflight of Mount Everest in gliding. He received numerous awards like the Louis Blériot PrizeHero of the Century and the Lilienthal-Medaille from FAI, the Joachim Küttner Prize from OSTIV and just recently, the Otto Lilienthal Medaille from the German Society of Aeronautics and Astronautics for his outstanding achievements.

Klaus is testpilot, stuntpilot, author, filmmaker and an inspiring professional speaker. His exciting lectures are presented in German, English, French or Spanish. He lives with his wife and two children in his home in the French Southern Alps.